小学校高学年になると、「思ったように絵が描けない…」と感じることがあります。友達の絵と比べたり、教科書の静物画と自分の絵の違いに戸惑ったり。「なんか変かも」「自分は絵が苦手なのかも」と悩むお子さんも少なくありません。
スキルアップ美術レッスン(1)では、筆や水の扱い方といった基本に触れました。今回はさらに一歩進んで、「色」と「構図」に注目し、表現力をぐんとアップさせるプロの技を紹介します。
プロも使う!絵を引き立てる色と構図のコツ
ステップ1:3原色でつくるオリジナルカラー
小さなお子さんでも知っている3色の色、それが赤・青・黄です。とても大切な色なので色の3原色と呼ばれています。この3色は、どんな色にも変化する“魔法の3色”なんです。でも他のどの色を混ぜても、この3色は作れないんです。だから3原色と言われています。絵の具セットにある茶色や緑も便利ですが、自分で色を作ることで表現の幅が大きく広がります。
例えば赤+黄でオレンジ、青+黄で緑、青+赤で紫。混ぜる比率によって微妙な色合いが変わり、子どもたちはその変化に目を輝かせます。
ヨハネス・イッテン色彩論(美術出版社)
子どもたちは混色する時、一気に絵の具を混ぜてしまいがちですが、ポイントは、それぞれの絵の具の量を調節しながら少しずつ色の変化を見ることで「この色だ!」という発見につながります。
ステップ2:混色でつくる美しい黒とグレー
さて、中学の美術で習うと思いますが、色には有彩色と無彩色の2パターンがあります。モノトーンと呼ばれる色が無彩色になります。やはり絵は有彩色の色を使うと豊かな色調になりますね。黒=黒の絵の具、と思いがちですが無彩色を使わないで、どうやって黒を作るのでしょうか? 実は、赤と緑を混ぜることで深みのある黒が作れます。黒って結構、使う色なんですよね。髪の毛や車のタイヤや日陰の色だったり・・・小学校高学年の時の私の担任は高校の美術の先生でした。その先生の言葉は今でもはっきり覚えています。「影は黒じゃないんだよ」と。
子どもたちの絵の具セットには「みどり」として明るいグリーンが入っていることが多いです。この「みどり」だとグレーにしかなりません。この場合は、みどり色は少なめにして「群青色」など暗い色を多めに混色してみて下さい。
ビリジアン(深緑)やクリムソンレーキ(暗めの赤)などがあれば、より本格的に仕上がります。これに白を足すと、温かみのあるグレーに。
黒の混色は大体、同じくらいの量を混ぜますが、ビリジアンが多いと青みがかったグレーに、クリムソンレーキが多いと赤紫がかったグレーになります。いずれも大変美しいグレーです。絵の雰囲気を引き立てる「有彩色」で作った無彩色?も、実は奥深い表現手段なんです。
以前、私の教室に見えたお母様から「絵の具は何色くらいあればいいでしょうか?」と質問されたことがあります。私は「バラ売りのチューブで構いませんから色の3原色に白とビリジアン、この5色があればいいですよ」とお答えしました。自分の欲しい色は、自分で作らないとならなくなります。お子さんが、すぐに色の変化に歓声をあげたのは言うまでもありません。
幼児は物を見て描いても実際の形態感より主観的に自分の感じたままを表します。私は小さなお子さんの、そんな素直な表現が大好きです。この辺りを理解してお子さんの絵をご覧いただければと思います。上の画像では混色して野菜の色を塗っていることがわかりますね。
ステップ3:主役と脇役の構図を考える
「どこから描いたらいいの?」「何を目立たせたいの?」という迷いには、「主役を決める」ことが大切。
良い構図は絵に見る人の視線を惹きつけます。よく子どもたちから「構図ってなぁに?」と質問されます。そんな時、私は「画面のどこに何をどんな大きさで書き入れるかってことだよ」と答えていました。
例えば「桃太郎」のお話では主役が桃太郎です。脇役の他の動物や鬼が桃太郎より、良く目立っていたらどうでしょうか? 主役はもっとも良く目立つように大きさや配置、色を工夫してみましょう。
主役は画面の中心や、少しだけ左右にずらした位置に置くとバランスが良くなります。脇役は主役を引き立てる存在。手前や奥、はみ出しなどを意識すると、画面に動きが生まれますよ。
ステップ4:色の明暗や補色で印象アップ
明るい色と暗い色を隣に置いたり、補色(反対色)を組み合わせることで、パッと目を引く配色が完成。構図だけでなく「色の演出」も、絵の印象を大きく左右します。
最近、児童施設でお子さんの絵を見る機会がありました。風景画で画面の左端の屋根の軒下が真っ黒に塗られていました。明暗の差が大きく、どうしても主役じゃない軒下に目がいってしまい、残念でした。
道具を大切に扱う心も育てよう
筆やパレットのお手入れは、絵を描く上でとても大切なプロセスです。パレットは使い終わったら軽く水洗い、筆は根元まで石けんで優しく洗って乾かしましょう。筆の泡が色づいていたら、まだ汚れが残っている証拠。私の教室の生徒さんにも、筆の丁寧な洗い方を話したところ、次からはきれいになった筆を見せてくれるようになりました。絵の具で汚れた筆洗バケツの水でサッと洗ったり、簡単な水洗いだけでは根本に溜まった絵の具が落ちません。
次に筆を使う時、その筆の色が溶け出して、使う絵の具を濁らせてしまいます。後片付けの時に、雑巾に筆の色がついてないかチェックしましょう!道具を大切にする習慣は、作品づくりの質にもつながります。私の教室に来ていた生徒さんに、道具の手入れが大切と話をしたところ、翌週から「先生、見て!見て!綺麗に洗えてる?お風呂に入ってシャンプーやリンスもしたよ」と私に筆を見せながら、手入れの話をしてくれるようになりました。
観察力を育てる視点:静物画の見方
*静物画のモチーフの配置は離れる部分と重なる部分があると、良い構図になります。
物の背比べ、位置、形、横幅をチェックしてみましょう。並んでいる物と物同士を比べっこしてみルト分かりやすいです。。自分が見ている場所から何が一番、近くにあるのか? 反対に遠くにあるものは何なのか?
画面の上で言うと自分に近い物は画面の下の方に配置、遠くのものは画面の上に描かれます。陰に隠れて見えない部分もあるかも知れません。隠れた形もうっすらと下描きで描いてみると形がより良く掴めますよ。もちろん、塗る時はぬらないで下さいね。良くありがちなのは、後ろのテーブルや台の線がガタガタに描かれてしまうこと。形の隙間から見え隠れしていても、飛び飛びに線を引かないで、ずーっと後ろに薄く入れてみましょう。台の線がガタガタにならずに済みますよ。そうした丁寧な観察が、画面に奥行きとリアリティをもたらしてくれるはずです。
また、これとは別に部分描きという方法もご紹介しましょう。描くものの部分から描き始める方法です。例えば、瓶ならラベルから描いて段々と瓶の外側を描いていく、人の顔なら鼻から描いたり、下の方なら足から描いていくやり方もあります。もし、それではみ出してしまったら、可能であれば画用紙を付け足して下さい。野菜など横に長い物であれば、横長に画用紙が継ぎ足しで伸びていくかも知れません。このやり方だと、決められた画用紙の中に入れなければならない、という固定観念を外して、のびのびと子ども(大人もですが)が絵を描けるようになると思います。
まとめ:絵の楽しさは“気づき”の積み重ね
- 3原色から無限の色を生み出す力
- 補色・明暗で主役を引き立てる構図
- 観察力と道具の扱いを磨くことがレベルアップの鍵
- どうやって物の形を見るのか?
- 全体像の把握と逆の部分描きも楽しい!
今回紹介したのは、どれも“ちょっとしたコツ”ですが、これらが子どもたちの「もっと描きたい!」という気持ちを後押しし、表現の幅を広げてくれるはずです。固定観念にとらわれず、自由にのびのびと描ける環境を用意してあげましょう!
次回のスキルアップレッスンもお楽しみに!
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